モノイダル圏がヒルベルト空間にとってかわり,新たな「量子力学の数学的基礎」が構築される.
20世紀のはじめ,シュレーディンガーによる波動力学とハイゼンベルクらによる行列力学がフォン・ノイマンによって統一され,ヒルベルト空間による量子力学の理論が完成した.そこから1世紀近くが過ぎた現在,モノとモノの関係性を扱う圏論に基づいた「圏論的量子力学(Categorical Quantum Mechanics)」が提唱され,注目を集めている.ヒルベルト空間のかわりに圏論の手法を用いることで,量子テレポーテーションや量子計算といった複雑な量子プロセスを考える際に欠かせない,複合系の取り扱いが明快になる.
圏論的量子力学において主役になるのは,テンソル積の構造をもったモノイダル圏である.本書では,モノイダル圏の導入から始めて,内積やトレース,重ね合わせや測定といった線形代数と量子論の概念を抽象化し,取り込んでいく.それによって,量子系の複製禁止定理や量子テレポーテーション,量子計算をモノイダル圏の言葉で表現できるようになる.最終章では,さらに一般的な枠組みである高次圏論に基づいて,量子プロセスを記述する.
基礎理論を一から身につけ,最新の応用まで学ぶことができる,待望の一冊.
[原題]Categories for Quantum Theory: An Introduction (Oxford University Press, 2020)