科学技術と社会の関係がいま、大きく揺らいでいる。
高度に進化し、日常に深く浸透したテクノロジーは、もはや科学的知見だけでは制御しきれないものとなった。それにより、科学技術の専門家、ひいては科学技術そのものが、しばしば疑いの目で見られ、時にないがしろにされるような状況が生まれている。しかし私たちの日々の生活は、科学技術なしには到底成り立たない。
科学技術といかに共生していくか――。この問いがいま、現代社会に生きる人々すべてに対して突きつけられている。テクノロジーへの無自覚・無関心な依存を脱し、互いに語らうべきときが来た。
原子力発電、遺伝子組換え、BSE、地球温暖化、そして新型コロナウイルス――。科学技術と社会の関係深化がもたらす課題と、それらをめぐるコミュニケーション・意思決定のあり方について、産業・理工学・人文社会学の各分野の第一人者たちが、それぞれの視点から切り込んでいく。
〈人類にとっての科学技術の意義とは〉、〈なぜ人々は科学技術に不信感を抱くのか〉、〈科学技術の光と影に、どのように向き合うべきか〉・・・。
各章で示される主張はまた、我々自身へのさらなる問いかけでもある。これらは現実の複雑さを投影して、さまざまな視角をもつ多次元の写し鏡をなしている。多面的な対話の重要性を、あなたは理解することになるだろう。
突きつけられた問いに向き合い、ともに語り、そして前進するための燈火となる書。
第1部 シンアルの地――社会にとっての科学技術を理解する
1章 不可避的に深まる科学技術と社会の関係(大来雄二)
第2部 言語の混乱――コミュニケーションとは何かを考える
2章 科学技術の恩恵は見えているか:電気の“空気化”がもたらしたもの(桝本晃章)
3章 不信と誤解が招く不安(唐木英明)
4章 コミュニケーションのすれ違いをどう理解するか(平川秀幸)
第3部 王《ニムロド》のいない街――誰が、何を、どのように意思決定するべきか
5章 「安全」の描像:リスクといかに共存するか(山口彰)
6章 社会における科学技術のガバナンスと専門家の役割(城山英明)
7章 科学技術専門家が市民の信頼を失う経緯(島薗進)
第4部 塔を囲む人々――執筆者座談会
1 原子力発電の過去・現在・未来(福島原発事故と汚染水)
2 未知の脅威にどう備えるか(次の感染症、次の大津波はいつか必ず来る)
3 無関心問題(メッセージが届かない人にいかにアプローチするか)
4 座談会の最後にあたって(読者へのメッセージ)