まず,ジェットエンジンのような,基礎科目に属さない一つの機械システムの取扱いはどのようにすべきか,大学自身が迷っているように思う.
それはジェットエンジンに限らず,ロケットエンジンとかピストンエンジンとか,それ自身一つの機械システムとして独立している科目に共通の悩みと考える.このようなシステムは,熱力学,流体力学,伝熱工学,振動工学などの基礎の理解のうえに,はじめて十全の理解が得られるわけであるが,多くの大学では,それらの基礎科目を履修した後にこのような機械システムの講義を受講できるようになっていない.総合科目を学んで3 年生から専門コースに入ってくる学生に対し,十分な専門基礎が身につくまで待てないため,たいていは3年の後期か4 年の前期にこのような講義がはじまってしまうのが現状である.工学基礎の十分でない学生に,ジェットエンジンについてどのような教え方をすべきか?
もう一つの悩みは,学生のほとんどが卒業後,必ずしもジェットエンジン関連の職業につくわけではなく,ついたとしても設計・開発の部門に配属されるのがほんの一握りの者に限られるということである.そのような学生に対し,このような機械システムの詳細をどのように教え,どのように意義づけるか?
そこで本書は,工学基礎が十分でない学生でも理解できるように,また将来必ずしもジェットエンジン関連の仕事につかない学生にも役立つよう心がけて執筆した.内容としては,ジェットエンジンの基礎概念と,設計の手がかりを与えている.設計の詳細は,大学院や企業においてさらに研究を積んで把握してもらうことになる.とくに,現在,コンピュータにより実施されている各コンポーネントの設計にはふれることができなかった.本書の性格上やむを得ないと考える.将来ジェットエンジン関連の職業につくことのない学生に対しても,機械のなかで起こっている物理現象を正しく把握できるよう,懇切丁寧に説明しているつもりである.それがジェットエンジン以外の機械に幅広く応用可能であり,工学者として世にある限り,将来,必ず役に立つと確信する.
第1 章においては,ジェットエンジンの歴史的なデビューにふれ,いままでのピストンエンジンとの隔絶した性能が航空界に与えた衝撃について述べ,ジェットエンジンに対する興味の導入部とする.第2 章において,空気力学の基礎を学んだ後,第3 章においては,主要コンポーネントとその効率の考え方について述べる.第4 章では,エンジンサイクル論およびジェットエンジン推力の求め方を,第5 章においては,圧縮機,タービンなどの主要コンポーネントの空力設計について詳述している.第6 章では,ジェットエンジン全体の運転および安定性について論じている.
以上がジェットエンジンの主要部であるが,第7 章,第8 章は補足的に考えられてもかまわない.第7 章においては,ジェットエンジンの性能の変遷をかえりみたうえで,現用の最先端エンジンの諸元を論じている.第1 章の初期のエンジンと比較して,その進歩に瞠目 す るであろう.第8 章において,ラムジェットエンジンなどの将来型エンジンの技術的ポイントを紹介している.
本書では,ガスタービンについては関連する部分でふれているのみであり,あくまで航空機用ジェットエンジンが主体である.また,エンジン構造については,著者の得意とする分野ではなく,かつ本書のボリュームを超えるため,割愛した.
本書の執筆に当たり,名古屋大学中村佳朗先生の数々の助言と懇切なる監修を得ることができた.わが国航空宇宙工業の中心地で長く教鞭を取られている先生のご指導をいただいたことは,著者の望外の喜びであり,深く感謝申しあげます.また森北出版の大橋貞夫氏,塚田真弓氏には終始多大の助力を賜りました.深く感謝申しあげます.
学生の求めに応じて,このような本をつくってみたが,もとより著者の不勉強にもとづく誤解が多々あると思われるので,読者各位の率直なご意見をお寄せいただければ幸甚である. 2004 年盛夏 鈴木弘一