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「電子透かしの基礎」
まえがき詳細目次

まえがき

 インターネットの急速な普及拡大につれて,マルチメディアの需要が増大している.その一方で映像ソフトや音楽ソフトのデジタル化にともないユーザやソフト制作者らによる不正コピーの問題がクローズアップされてきた.また,インターネットを介した静止画や電子文書の頒布は,第二,第三の無許可コピーを流布する結果を招きつつあり,著作権の管理が緊急の課題となっている.

 最新のデジタル機器を用いると,原本とほぼ同じ複製品を自由に再生できる環境にあるので,独創性のある作品を違法コピーのはびこる情報ネット上に流通させるためには,著作権の保護が必須となる.このような電子メディアの知的財産権をめぐる問題は,十数年前に成立したソフトウェアの著作権保護対策に引き続いて,今後,われわれが解決しなければならない緊急かつ重大な課題であろう.

 その対策の一つとして,マルチメディアに「電子透かし」を設定することが提案されている.電子透かしとは,電子文書や画像,音楽などの創作品の中に,著作者の固有の識別符号を密かに埋め込み,所有権の所在を主張しようと企図したものである.これは,不正コピー者に無言の圧力を与え,あるいは著作権侵害に対する検証の道具として利用されることになる.

 この電子透かしの発想は,古くから情報セキュリティの世界で使われていた通信手段を秘密にするステガノグラフィ(steganography)と同じ性格のものである.それが電子メディアの時代にふさわしい形態で再登場したと考えてもよいであろう.したがって,本書ではステガノグラフィの手法を念頭に置きながら,最近になってわが国を始め世界各国で開発されつつある多くの電子透かしの基本的な技法を紹介し,その応用について分かり易く解説する.

 本書は,8章から構成されている.まず,第1章では電子透かしの考え方を述べ,電子透かしに要求される諸条件を考察する.第2章では,2値画像に対する電子透かしの方法を述べる.第3章では濃淡画像に対する透かしの技法を述べる.多値画像データには冗長度が多く,電子透かしを埋め込む余地は随所にあり,多くの巧みな方法が提案されている.また第4章では,カラー画像についてJPEG対応の手法について検討する.一方,第5章はファクシミリ画像について独特なアイデアを提示する.第6章はMPEG1および2における電子透かしの考え方を検討する.さらに,第7章では音声に対する電子透かしの方法を国際標準規格に対する具体例で述べる.人間の聴覚は精度が良いので,透かし情報がノイズにならないように埋め込む工夫を示す.第8章では,デジタル文書に対する電子透かしの方法を述べる.デジタル化された文書データには冗長性が少なく,透かしの埋め込みには極めて不利である.したがって,文書のハードコピーに透かし情報を埋め込むことが多い.そのような事例を具体的に示す.

 本書をまとめるに当っては,多くの論文や著書,雑誌記事などを参照させていただいた.そのつど参照文献を表示しているが,ここに改めてその著作者に心から謝意を表する次第である.また本書を作成するにあたり,本学中村康弘助教授を始め,研究室のOB各位,特に田中清氏,片岡利幸氏,大西淳児氏,岡一博氏,岩切宗利氏には多大なご支援をいただいた.心から感謝申しあげたい.最後に,本書の執筆にあたり終始お世話になった森北出版(株)取締役星野定男氏に厚くお礼申し上げます.

平成10年 春 小原台にて 著者


目次

第1章 序 論
1.1 電子メディアの著作権保護
1.2 電子透かしとは何か
1.3 電子透かしの用途
1.4 電子透かしの分類

第2章 2値画像への電子透かし
2.1 静止画像の特徴
2.2 濃度パターン法による電子透かし
2.3 組織的ディザ法による電子透かし
2.4 誤差拡散法による電子透かし

第3章 濃淡画像への電子透かし
3.1 画素置換型の電子透かし
3.2 画素空間利用型の電子透かし
3.3 量子化誤差利用型の電子透かし
 3.3.1 画素領域における量子化誤差の利用
 3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用
3.4 周波数領域利用型の電子透かし
 3.4.1 離散フーリエ変換による電子透かし
 3.4.2 直交ウェーブレット変換による電子透かし
 3.4.3 スペクトル拡散による電子透かし
 3.4.4 位相を利用する電子透かし
3.5 統計量を利用する電子透かし
 3.5.1 パッチワークによる電子透かし
 3.5.2 画素変換による電子透かし
 3.5.3 ランダム分布による電子透かし
 3.6 ビットプレーンの複雑さを利用する電子透かし

第4章 カラー画像への電子透かし
4.1 2値カラー画像への電子透かし
4.2 多値カラー画像への電子透かし
4.3 JPEGにおける電子透かし
4.4 3次元画像への電子透かし

第5章 ファクシミリ画像への電子透かし
5.1 ランレングスへの電子透かし
 5.1.1 基本概念
 5.1.2 埋め込み法
5.2 差分情報への電子透かし
 5.2.1 基本概念
 5.2.2 埋め込み法
 5.2.3 G4ファクシミリへの応用
5.3 ディザ画像のファクシミリ符号への電子透かし
 5.3.1 ビットインターリーブ法の概要
 5.3.2 埋め込み法

第6章 動画像への電子透かし
6.1 MPEG1における電子透かし
 6.1.1 符号化システムの概要
 6.1.2 電子透かしの埋め込み
6.2 MPEG2における電子透かし
 6.2.1 符号化システムの概要
 6.2.2 電子透かしの埋め込み

第7章 音声への電子透かし
7.1 アナログ形式の電子透かし
 7.1.1 スクランブル信号による電子透かし
 7.1.2 位相成分による電子透かし
7.2 音声量子化値への電子透かし
 7.2.1 ディザ信号による電子透かし
 7.2.2 適応PCM量子化による電子透かし
7.3 音声マスキングによる電子透かし
 7.3.1 周波数マスキング
 7.3.2 時間軸マスキング
7.4 予測符号ランレングスによる電子透かし
7.5 ベクトル量子化による電子透かし
7.6 音源パルスによる電子透かし
7.7 音楽ソフトへの電子透かし

第8章 文書への電子透かし
8.1 欧文への電子透かし
8.2 和文への電子透かし
8.3 透かしの代替方式

第9章 電子透かしの評価基準
9.1 構造上の評価項目
9.2 運用上の評価項目
9.3 保全上の評価項目

参 考 文 献

索 引
アップデート:2009/04/08

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